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3月, 2025の投稿を表示しています

武家茶道

江戸時代から現代まで、茶道はさまざまな流派に分かれて発展してきました。特に、三千家とよばれる表千家、裏千家、武者小路千家が知られていますが、これらは主に町人茶道とされます。一方、武家の中で発展した茶道は「武家茶道」とよばれ、知られる流派には広島を本拠とする上田流や江戸幕府での指南歴もある遠州流があります。この中で、遠州の跡を継いで徳川家4代将軍・家綱の時代より柳営茶道(徳川将軍家の茶道)を担った石州流が武家茶道の代名詞となり、上杉流や伊達流といった、石州のテイストを取り込んで著名な武家で独自に発展したものもあります。 町人茶道と武家茶道の違い 町人茶道は「侘び茶」ともよばれ、千利休の夢見た簡素で純淨な茶の心を重視し、大きな格差を込まずに誰でも参加できる環境を重要視しました。 一方、武家茶道は、利休の残した茶の湯をベースとしつつも、武士の手習いとして発展し、儀礼性が強く、教養の一環として受け継がれました。特に、大名や将軍家では大きな行事の場面で茶が施され、その影響は武家全般に広まっています。 武家茶道の特徴 武家茶道の最大の特徴は、「带刀」を意識した動作です。武士は背後に安全を確保する必要があり、茶室に入る際にも避難線や姿勢を意識します。例えば、町人茶道の多くは左腰に袱紗を引き下げるのですが、武家茶道では実際には帯刀していなくても、常に左腰に刀があると意識して右腰に袱紗を配する流派が多いです。そのほか、私ども石州流では畳の上に手をついてお辞儀するときも、握りこぶしで軽く畳に触れる程度に収めます。これは、畳にじかに触れる手の面積を小さくすることで清潔を保つということのほか、有事の際にさっと動けるようにするという意味合いもあります。さらに、相手の気配を探りつつ死角を作らないよう、お辞儀の際には頭を下げすぎないのも特徴的です。深く頭を下げたほうがマナー的に良さそうですが、頭を下げた瞬間に首をはねられるかもしれないという、当時の武士の危機管理に端を発しています。 私は石州流しか知らないのですが、点前の作法もこれでもかというくらい道具を拭き、洗って清めたうえで茶を点てます。従って、点前の手数は町人茶道に比べるとはるかに多く、でもテンポよく対応するのでダラダラと続くわけでもない。丁寧さとスピード感を両立させるうえで、点前役は相当の集中力を要しますので、小抜けな動作が許されず、自然...

織部焼の湯飲み

茶人として日頃から抹茶に接する機会が多いですが、「茶」という広いカテゴリーの中では、煎茶や玉露も好きです。特に玉露のように甘みの強いものが好みで、多少割高でもついつい手が伸びてしまいます。抹茶は点てる手間がかかるため、どうしても日常的に飲むにはハードルが高いですが、煎茶や玉露なら茶葉を急須に入れてお湯を注ぐだけなので、手軽に楽しめます。 そんな玉露を飲むにあたって、ずっと「これだ!」と思える湯飲みを探していました。抹茶茶碗は茶道の点前で使いますが、ほとんどが陶器、つまり焼き物です。だからこそ、湯飲みも焼き物にこだわりたいという思いがあり(笑)、良いものを見つけるまで妥協せずに探し続けていました。 織部焼との出会い 先日、ふと立ち寄った店で、中古市場に出回っている織部焼の湯飲みを見つけました。箱付きで保存状態もよく、手に取ってみるとずっしりとした存在感がある。茶道でも織部焼の茶碗や菓子器を使用することもあり、なじみのあるものでしたので、しばらくこの湯飲みと対峙していました。 元来、衝動買いをあまりしない性格なのですが、その場でじっくり観察し、手に触れて家で玉露を飲む姿を想像し……と、店先で怪しい妄想を繰り広げること約20分(笑)。手ごろな値段だったこともあり、これは運命かもしれないと購入を決意しました。 織部焼とは 織部焼は、桃山時代に登場した日本の伝統的な陶器のひとつで、茶人でもあった武将・古田織部によって広められたとされています。特徴的なのは、鮮やかな緑の釉薬と、歪みのある大胆なデザイン。一般的な茶器とは異なり、遊び心や個性を大切にする美意識が感じられます。織部焼は、その自由な発想とユニークな造形で、茶の湯の世界に新しい風を吹き込んだ焼き物といえるでしょう。 古田織部は武家茶道のさきがけである織部流の流祖、かつ柳営茶道(徳川将軍家で広まった茶道)の礎を築き、初代将軍・家康、二代将軍・秀忠が織部から指南を受けていたことでも有名です。石州流の流祖・片桐石州も織部の系譜をたどり、四代将軍・家綱の時代に柳営茶道の指南役として出仕しています。石州の茶の湯には、織部の自由な発想や美意識の影響も少なからずあったとされています。ですので、自他ともに認める石州ファンである私の師匠は、結構な数の織部焼の茶器を保有しており、稽古でもよく使わせてもらっています。 なぜこれを選んだのか? ...